海外の学校では長い夏休みに日本へ一時帰国するご家庭も多いと思います。わが子は小2の夏に公立小学校へ体験入学しました。結果、すばらしい日本の学校教育を経験でき、親子ともに大満足の体験となりました。一方で、初めての経験だったので、不安なことも多くあり、手探りでの準備はとても大変でした。本記事では、わが家が経験した、体験入学の準備や失敗談、実際の学校生活の中で困ったことをお伝えします。一時帰国の際に日本の学校へ体験入学を検討している方の参考になればうれしいです。
体験入学とは?
そもそも、一時帰国時の体験入学とは何なのでしょうか。正式な入学とは何が異なるのでしょうか。
体験入学の定義
国として、「体験入学」の制度がない
いわゆる「体験入学」は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁
海外から一時帰国中又は一時帰国を予定しているお子様の保護者向けお問合せに寄せられたFAQ (mext.go.jp) (PDF)
量によって実施されているものです。「体験入学」を実施していない教育委員会もあれば、実施していて
も期間や条件が違う場合もあります。また、「体験入学」を実施していなくても、Q3にある通り、日本人
学校に在籍したまま、日本の学校に編入することも可能です。居住している、もしくは居住する予定であ
る自治体の教育委員会にお問い合わせください。
「体験入学」という制度は国で定めておらず、各自治体(教育委員会)が制度を設けるか否か、そして、どういう制度にするかを決めるようです。
いやいや、教育を受ける権利は憲法で定める「国民の権利」の一つでしょう?
いいえ、海外に住んでいる子どもは、たとえ日本国籍を持っていても義務教育を受ける権利はありません!!!
Q&A:文部科学省 (mext.go.jp)
なるほど、義務教育を受ける憲法上の権利はないけど、「憲法の精神に沿って」支援をしてくれているんですね。だから海外でも教科書を無償で(配送料のみで)受け取れる、ありがたいことです。
しかし、一時帰国時の体験入学は、国としての支援の範囲外ということですね。仕方ないです。
自治体にも「体験入学」の制度はない!?
それでは、各自治体の制度はどうなっているのでしょうか。各自治体の制度をホームページで調べてみたところ、明記がある自治体については、以下の傾向がありました。(そもそも明記がない自治体も多いので、日本全体の傾向という訳ではありません。)
この文言を私なりに解釈すると以下の通りです。
- 自治体が受け入れ可否を決める
- 正式な入学だから学校のルールに従う
- 正式な編入学時と同じ手続き(書類記入など)が必要。
ところで、私の周りでは、一時帰国時の体験入学(制度としてではなく一時的に学校に通うこと)を断られたケースを聞いたことがありません。これは、コロナ禍を背景として、文部科学省から各自治体・教育機関等へ以下の「通知」が出されたことが影響しているように思います。
(5) 一時的な帰国であっても就学の機会が適切に確保されることが重要であることから,以下のとおり,主として義務教育段階の児童生徒への対応の留意点を示すが,その他の生徒等への対応の際にも,これに準じて十分留意されたいこと。
(ア) 学齢簿の編製等
新型コロナウイルス感染症に起因して海外から帰国した児童生徒等への対応について(3/26現在)(通知) (mext.go.jp) (PDF)
一時帰国した児童生徒等からの転入学の希望を受けた場合には,上記(1)に留意の上,居住実態に基づき学齢簿を編製するなど,可能な限り弾力的に取扱うこと。
いわゆる「体験入学」による受け入れを希望された場合について,教育委員会の裁量による「体験入学」の実施を妨げるものではないが,「体験入学」を行っていないことを理由に受け入れが行われないことがないよう,保護者に対し,居住実態に基づき転入学が可能であることを説明するなど,児童生徒等の就学機会が確保されるよう適切に対処すること。
こちらは、「新型コロナウィルス感染症に起因して帰国した児童生徒」を念頭にした通知ですが、おそらく帰国理由によらず各自治体が柔軟に受け入れてくれている結果と推測されます。
以上のことから、「体験入学」という制度がなくても、保護者が望んでいる「日本の学校を体験する」を実現できそうだということがわかりました。なお、本記事では、「一時帰国時に日本の学校に短期間入学する」ことを便宜上「体験入学」と表しますので、ご了承ください。
【体験記】我が家の場合
体験入学の目的
我が家の娘は年長で渡米したので、日本の小学校を未経験です。そして、繊細な性格ゆえ、登園時に泣くことが常でした。我が家は期間限定の駐在で、近い将来日本に本帰国することが決まっているので、本帰国後に苦労しないよう、日本の小学校は楽しい場所だという印象を持ってもらうことが必要と考えました。加えて、本場の日本語に触れることで日本語の勉強に意欲的に取り組むようになれば、という淡い期待もありました。
体験入学の準備とスケジュール
我が家が、体験入学に向けて実施したことは以下の通りです。
以下で、各項目について具体的に説明します。問い合わせメールの内容も書いていますので、参考にしてください。
帰国前の準備
自治体に問い合わせ(1月)
我が家の場合、体験入学が一時帰国のメイン目的だったので、航空券をとる前に、体験入学の受け入れ可否を確認しました。知り合いの中には、一時帰国してから役所に行って、申し込んだという強者もいます。
早く問い合わせをしても、後述のとおり、次のステップ(通う小学校とのやりとり)は、新体制となる新年度4月以降になるので、4月以降の早いタイミングで問い合わせをするのがスムーズかもしれません。
問い合わせは自治体のホームページから転入学手続きを担当している部署の連絡先メールアドレスを探して、メールで問い合わせました。問い合わせでは以下の点を記入しました。
幸いなことに、自治体からは翌日には返信を頂きました。返信の内容は、以下の通りでした。
- 体験入学という制度はないが、正式な編入学として受け入れ可能
- 新年度に学校の人事が変わる可能性があるので、4月以降に入学する小学校に連絡すること
- 住民票登録はどちらでもよい
一時滞在先の自治体は、ホームページに体験入学に関する記載がなかったのですが、「体験入学の制度なし、住民票不要」などは、事前に他の自治体のホームページで調べていた傾向と全く同じでした。
学校に連絡(4月)
4月に入ってから、再度自治体に連絡して、学校への連絡先メールアドレスを確認しました。連絡先として教えていただいたのは、学校の副校長先生のメールアドレスでした。副校長先生に連絡したメールは以下の通りです。
こちらも、2~3日後に返信を頂けました。先輩ママの話では、以前は電話しか連絡手段がなく、時差も考慮しながら連絡していたそうなので、今は本当に便利な時代になりました。副校長先生とのメールの内容は以下の通りです。
- 事前面談の日程調整
- 必要書類や用意する備品も含め、詳しいことは事前面談で伝える
- 教科書はコピーするから持参不要(持参してもよい)
- (娘へ)学校は楽しいし給食もおいしいよ、楽しみにしていてね
娘への温かいメッセージを頂けたことが、本当にうれしかったです。
残念ながら、用意する備品や必要書類については、事前面談で説明するとのことで、メールでは説明してもらえませんでした。一時帰国前に手間のかかる書類記入や備品購入を済ませてしまいたかったのですが、仕方ありません。後から分かったのですが、書類や備品の説明資料は種類も多く、電子ファイルでは保存されていないであろう「プリント」類がメインでしたので、気軽にメールで渡せるものではなさそうでした。
子どもの意思確認(4月~)
小学校に体験入学することは、子どもの希望でもあったのですが、気が変わっては大変なので、折に触れて、意思を確認し続けました。その際、子どもの気持ちを聞きつつ、不安な気持ちに寄り添うことを心掛けました。
それでも、年長まで日本の保育園で一日中遊び倒していた楽しい記憶があるので、基本的には期待8割、不安2割という感じでした。
備品購入(5月)~失敗談~
学校からは、必要な備品について情報を得られませんでしたが、学校のクラスに配るお土産を購入しました。
お土産として、アメリカっぽい「シール」と「鉛筆」を用意したのですが、「学校内でのプレゼント禁止」というルールがあったようで、実際には配布できませんでした。学校のルールを事前に確認しておくべきでしたね。
帰国してからのこと
事前面談
事前に役所でパスポートなどのチェックを受け、「転入学通知書」を受け取りまして、子どもとともに放課後の学校を訪問しました。小学校の敷地内に入るのは、私自身おそらく小学校卒業以来はじめてだったので、私も緊張しました。同時に、「私は小学生の母なんだな」と強く自覚しました。保育園児のまま渡米し、無我夢中で異国の生活をこなした2年間。子どもを現地小学校に通わせていても、2年ぶりに帰国して見慣れた風景に身を置くと、気分は未就学児の母のままでした。街で見かけるママチャリ子乗せ族を無意識のうちに「仲間」と感じてしまい、「いやいや小学生なんだ」と思い直す、まさに浦島太郎だったのです。
事前面談では、私たち親子のほかに他の親子が1組いて、わが家と同じように海外からの一時帰国に伴う体験入学でした。
面談では、事務の方と担任の先生が対応してくれました。お話しした内容は以下の通りです。
学校の決まりなどの説明
担任の先生と面談
登校準備
購入品
入学を少しでも楽しみにして欲しいと思ったこと、子どもがみんなと違うのは嫌だと言ったことから、わが家はほとんどの持ち物を購入しました。持ち物を購入するのは楽しかったのですが、その先に各持ち物へ「名前つけ」が待っています。悩みましたが、名入りの「お名前シール」を買いました。
主な、購入品(高額なものを中心に)は以下の通りです。
- 鍵盤ハーモニカ
- 体操着
- 水着一式
- 防災頭巾
- 袋(上履き袋、体操着袋、図書バッグ…)
- 文房具(お道具箱、はさみ、のり、色鉛筆…)
逆に、あえて買わなかったものは以下の通りです。
- ランドセル(高すぎたため)
- 絵具セット(期間中に使用予定なしのため)
- タブレットバッグ(貸与タブレットは学校では使わない、家でも使用は任意、でも毎日持ち帰る必要があるとのことで、タブレットは借りませんでした。)
締めて、学校用品として購入した品の総額は約5万円でした(登下校で使うAirTagなど学校から指定されていないものは除く)。
登下校の準備
アメリカでは、学校まで車送迎で子どもが大人抜きで外出することはありませんでした。日本に住んでいる親御さんからは過保護と思われるかもしれませんが、わが子が見知らぬ土地で一人で歩いて登下校する姿を想像するだけで、不安で心が張り裂けそうになります。不安な気持ちを少しでも和らげるために、対策は万全にしました。
登校仲間探し
子どもの通う小学校では集団登校の仕組みがありませんでした。そこで、登校の様子を探るために、事前に(体験入学をする前に)、登校時間に子どもと一緒に外で待ってみました。すると、近所の子どもたち数名とその親御さん1名が待ち合わせ場所に集合していました。近所の子どもたちで自主的に集団登校をしているとのことだったので、親御さんに説明して、一緒に登校してくれるように約束を取り付けることができました。
下校仲間探しは、登校のようにうまくいかず、入学までには探すことができませんでした。というのも、学年が違うと下校時間が違うことや同学年でも学童に行く子が多いことが理由です。しかし、親の心配をよそに、親切な友だちが家まで送り届けてくれました。
安全対策
安全対策として以下のことを行いました。
そのほかの準備
そのほかにも以下の準備を行いました。ここまですれば準備は万端です!
- 体操服、水着の着脱練習
- 鍵盤ハーモニカの練習
- 指定の小児科で健康診断を受診
学校生活
学校生活は得るものも多く、準備は大変でしたが本当に体験入学をさせてよかったです。
よかったこと
先生からの手厚いフォロー
担任の先生の配慮が手厚くて、本当に感謝しかありません。世話好き女子の近くに座席を配置してくれたり、休み時間に孤立しないよう配慮してくれたり。
親御さんから聞いたのですが、体験入学直前に定例の保護者会があり、「海外からの体験入学」について丁寧に説明があったそうです。「子どもたちはとっても楽しみにしていますよ!」と言われれば、体験入学をよく思わない親御さんでも、悪い気はしないのではないでしょうか。もちろん前提として「子どもたちが楽しみにする」ような説明が先生から子どもたちにあったのでしょう。
また、登校前日、登校初日などこまめに電話連絡もくれ、学校での様子なども伝えてくれました。日本の学校の先生は本当にすごいです。
友だちが優しかった
学校のクラスメイトにも本当にお世話になりました。下校時は、ちょっと寄り道してわが家の前まで送ってくれたり、次に何をやるかなど、少しでも戸惑っているとすぐに教えてくれたそうです。低学年ということで、まだまだ男女の別なく、グループの縛りなく、遊べる年齢だったことも幸いだったと思います。
勉強に意欲的になった
我が家では、普段から日本の勉強に力を入れてきました。しかしながら、子どもは勉強する意味を見出せないようで嫌々勉強している感がありました。ところが、家庭学習で学んだことが日本の授業中に出てきたり、みんなが知っていることだったりすることに喜びを感じたようで、日本の勉強に以前より真面目に取り組むようになりました。
また、難しい本を読んでいる子、字のきれいな子、計算の早い子など、身近にはいない”スーパーな子”を見つけては、刺激を受けたようです。
勉強が分からなくて、日本の学校を嫌いになることも心配していましたが、先生からの「学習面は問題なし、生活面で慣れれば、学校生活に適応できる。」と言って頂けたので、一安心です。
困ったこと
連絡帳が読めない
アメリカにはない日本の習慣として、「連絡帳」があります。帰りの会などの時間に、連絡帳に明日の予定、時間割、持ち物、宿題などを記入して、帰宅後に連絡帳を見ながら明日の用意をします。ただでさえ書き慣れていない日本語で意味もわからない用語を書き写すのは、わが子には困難だったようです。不明な点は、知り合いの親御さんに連絡をとり確認をしました。
連絡帳の記入以前に、日替わりで複数の持ち物をリュックに詰めるという作業は、アメリカでは経験していなかったので、苦労するポイントでした。
帰宅時間が読めない~留守番を経験
子どもが学校に慣れてくると、下校に時間がかかるようになりました。友だちと道端で座り込んで休憩をしたり、友達との分かれ道でなかなかバイバイできなかったり。AirTagで居場所を把握できたのはよかったですが、私も予定を詰め込んでいたので、調整が必要でした。
また、学期末に近づくと、短縮授業、給食がない日など、下校時間がイレギュラーになります。子どもの学校時間帯は、私も予定を詰め込んでいるので、帰宅時間がずれるのは死活問題。知り合いの親御さんに帰宅予定時間を聞くと、「鍵を持たせているから何時に帰ってくるかは気にしてない」という衝撃の回答が返ってきました。
送迎いらなくて日本はいいわぁ~と感動していましたが、帰宅時間に家にいることすら不要だなんて。
もちろん、子どもにお留守番をさせることに賛否両論があります。我が家は、地域特性(治安、自然災害のリスク)や子どもの成熟度を考慮して、約束事を十分に説明したうえで最低限の時間のお留守番をさせました。もちろん防犯対策や緊急時の連絡手段の確保なども行いました。
遊ぶ約束ができない
放課後の過ごし方は、子ども同士で勝手に約束をして帰ってきて公園などで遊ぶと思っていたのですが、わが家の地域では、低学年のうちは一部の子たちだけのようでした。習い事、学童など現代の子どもたちは忙しく、子どもだけで約束を交わすのは難しいようです。
我が家は、親主導で、近所の友だちとの約束を取り付けて遊ぶようにしました。この点はアメリカでも同じですね。
登下校が暑い
体験入学をしたのは7月。梅雨の中慣れない傘でびしょ濡れになったのも束の間、本格的な夏がやってきて、炎天下を汗だくで水筒を空っぽにして帰ってくるようになりました。
わが子の日々の持ち物は、通常は、筆記用具、連絡帳、教科書コピー数枚と全教科対応のノート1冊だったので比較的軽い荷物でしたが、本帰国時が思いやられると感じました。
替えの靴下、アイスリング、アイスタオルは必需品でした。
まとめ
いかがだったでしょうか。体験入学は私にとっても、子どもにとっても想像以上に素晴らしい体験でした。この記事が体験入学を考えている人の参考になれば幸いです。最後に、今回の体験入学の成功の秘訣と体験入学で得たことをまとめます。
私が考える成功の秘訣
- 準備に時間をかける。お金もかける。
- 不明なこと、心配なことは問い合わせる(自治体・先生・親御さん)
- 日本の文化・教育システムを尊重する
体験入学で得たもの
- 子どもの自信
- 子どもの日本語学習意欲
- 母の自覚(子どもはもう幼児ではない、一人でできることが増えている)