乳幼児、小学生を連れて海外移住が決まったら読む本 |『 完全改訂版 バイリンガル教育の方法 』

おうち英語
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小さなお子様を連れての海外駐在が決まると、友人知人から「子どもはバイリンガルになるね」「帰ってきたときにはペラペラだね」などと言われることが多いかと思います。私自身も、帰国子女の有名人をテレビなどで見て、憧れる部分があったので、そういうコメントをする方の気持ちもわかります。しかし、今回紹介する本では、バイリンガル教育に興味のある学校関係者や親御さん向けに、データや研究結果に基づいた教育方法を紹介しており、12歳未満で海外で生活をする場合のバイリンガル教育の複雑さを教えてくれます。こういう現実を知っておくことは、家庭の方針を決めたり、学校選びなどに役に立ちます。

乳幼児や小学生をつれて海外生活をされる方は、渡航する前または渡航後の早い段階で、一読されることをおすすめします。さらに、滞在期間が長くなるにつれて、子どもたちの言語面での課題も変わっていくので、都度、この書籍で確認すると、毎回新たな発見があります。私にとって、本書は、子どもへの接し方の道しるべとなる、とても心強い存在です。

内容紹介

基本情報

著者中島 和子
形態単行本
サイズA5判(15 x 1.8 x 21 cm)
ページ数272ページ

概要

著者の中島和子さんは、バイリンガル教育の先進国であるカナダで、バイリンガル教育の第一人者として長年研究を続け、自らもバイリンガル子育てを実践した方です。

本書は、1998年に初版が出版され、その後、増補改訂版を経て、最新版の本書「完全改訂版」が2016年に出版されている名著です。一口に「バイリンガル教育」と言っても、その目的、背景はさまざまで、例えば、日本で英語を学ぶ場合、アメリカで英語を学ぶ場合、日本で第二言語として日本語を学ぶ外国人の場合など多岐にわたります。本書では、12歳までの児童を対象に限定しつつ、さまざまな背景別に、第二言語を学ぶ過程や母国語の成長の過程で、起きうることを教育機関での実例をもとに、ご自身の子育てでの経験も交え、一般の人にも分かりやすく記しています。

目次

  • 第1章 バイリンガルとは
  • 第2章 子どもの母語の発達と年齢
  • 第3章 バイリンガル教育の理論
  • 第4章 家庭で育てるバイリンガル
  • 第5章 イマージョン方式のバイリンガル教育
  • 第6章 年少者英語教育とバイリンガル教育
  • 第7章 マイノリティ言語児童生徒とバイリンガル教育
  • 第8章 海外児童生徒とバイリンガル教育
  • 第9章 海外日系児童生徒とバイリンガル教育
  • 第10章 バイリンガルと文化の習得
  • 第11章 バイリンガル教育への疑問
  • 第12章 バイリンガル教育の日本の言語教育への貢献

感想

渡米前に参考にしたこと

恥ずかしながら、海外駐在の話が出たときに、「わが子がバイリンガルになれる!」と期待する気持ちがありました。しかし、本書を読んで、そんな浮ついた下心はなくなりました

子どもの教育に熱心で、どちらかというと過保護になりがちな日本人の親たちが、英語力のない子どもを無防備のまま現地校に入れるという、とてつもなく無謀なことがよくできるものだと私はつねつね思っている。子どもにとっては負担の重い経験で、強い子どもなら何とか切り抜けられるが、弱い子どもは被害をこうむることが当然予想されるからである。

引用元:「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」 第8章 海外児童生徒とバイリンガル教育 

はい、無謀なことをしようとしていました。著者がやや批判めいたことを述べている箇所は、後にも先にもここだけです。むしろ、海外で母語と第二言語を両立させる難しさをデータに基づいて説明されたうえに、この文章があるので、説得力があります。

子どもなんてすぐに外国語も身につけるだろう、と甘く見ていた我が家ですが、本書を読んで、渡米前に子どもに英語教育など、できるだけの準備をしていく方針に変更しました。(あくまで我が家の方針です。これが正解ということではなく、子どもの性格や海外生活で重視することなどから考えた結果です。)

さらに、両言語ともに十分に使いこなせない「ダブル・リミテッド現象」とか「セミリンガル」という状態についても、詳しく説明されています。こういう状態を避けるための具体的な対策についても大変参考になりました。

母語の基礎が完成する2歳から4、5歳の間に母語のノーマルな発達が阻まれると、言語発達全体が遅れてしまい、2言語環境の犠牲者になる可能性がある。そのなかでも、2歳から4、5歳までの幼児がいちばん危険率が高い。

引用元:「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」 第4章 家庭で育てるバイリンガル

また、下記のように、海外の日本語補習校の全校生徒を対象に、滞在年数と学年を軸に学力調査を行ったデータが紹介されています。

さらに入国時年齢との関係を調べてみると、5、6歳以前に海外に出た子どもとそれ以降の子どもとの差が顕著に見られ、読解力の維持では、圧倒的に小学生になって日本語の読み書きができるようになってから海外に出た子どもの方が有利であった。(略)

滞在期間が延びるごとに日本の子どもとの開きが最も大きくなるのは、「3歳~6歳」に英語圏に入った子どもたちで、(後略)

引用元:「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」 第8章 海外児童生徒とバイリンガル教育 

このようなデータや解説を読んで、我が家では、家庭での英語教育は渡米前まで頑張る、渡米後は家庭での日本語教育をしっかり行う方針としました。そして、本や日本語ワークなどを大量に購入してアメリカへ持ち込みました。(あくまで我が家の方針です。これが正解ということではなく、子どもの性格や海外生活で重視することなどを考えた結果です。)

このように、子どもの成長を見通して、渡米前の時点で家庭での方針を決めることに本書はとても役に立ちました

渡米3年目に思うこと

定期的にこの本を読み返していますが、子どもの成長にしたがって、毎回新たな発見や気づきがあります。

たとえば、本書第4章に登場する「ニューヨークのタクヤくん(4歳)」の例。

ところが、帰宅して日本語の環境に戻ると、絶えず独り言を言う。日本語のような英語のような得体の知れない言葉(母親の言)を発して、母親の日本語による話しかけにも、ポカンとした表情でチラと注意を払うだけで、独り言に閉じこもってしまう。

引用元:「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」 第4章 家庭で育てるバイリンガル

渡米前には、ちょっと極端な例と感じて、読み飛ばしてしまった箇所でしたが、子2(男)も4歳の時に「日本語のような英語のような得体の知れない言葉」でひとり遊びをする時期がありました。私からの日本語での話しかけには反応しており、特に問題視していなかったのですが、本書を読んで、ハっとして、日本語の話しかけや読み聞かせの機会を増やすようにしました。

今思い返すと、日本語が消えかかっているサインだったのかもしれません。早めに対処できてよかったと思います。

これ以外にも、英語が伸びる一方で「日本語の本読みを嫌がる」「日本語の会話に英語が混ざるのみならず文型もおかしくなる」「あとから渡米してきた同級生の方が英語の伸びが速い」など、本書で説明されていることが予言書のごとく、的中していきました。あらかじめ知識があると、客観的にわが子を観察でき、結果的に早めに対処ができるので、理論武装しておくというのは大事だと痛感しています。

バイリンガル教育のメリット

本書を読んで、私は、海外で子育てをすることで子どもたちの健全な成長が妨げられるという強い危機感を持ちました。しかし、本書は単に危機感をあおり、警告するような本ではありません。昨今、おうち英語のように、日本にいながら、ご家庭で英語教育に励むご家庭も増えています。そういう風潮に否定派がいるのも事実ですが、著者はむしろバイリンガル教育を肯定的な立場で描いています。

日本のように言語資源が少ない国では、日本語以外の言語教育をなるべく早期に初めて、国益につなげるべきだと筆者はかねがね思っている。理由を6点選ぶと次のようである。

引用元:「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」 第6章 年少者英語教育とバイリンガル教育

例えば「小学校から英語を教えれば、その影響を受けて、国語力が低下するのではないか?」という危惧である。しかし小学英語の研究開発学校の実践記録(文科省 2014)を見ると、国語力が低下するどころか逆にプラスの影響が報告されている。

引用元:「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」 第6章 年少者英語教育とバイリンガル教育

また、バイリンガル教育のメリットについても多くの事例を紹介されています。

では、バイリンガルに育つことが、具体的にどういう点でメリットがあるのか、いくつかの研究例を紹介しよう。ここでは、これまで触れてきたいろいろなメリットに加えて、特に思考の柔軟性、言語一般に対する理解力・分析力、そして、話し相手に対する配慮・言語による人種偏見という4点を特に取り上げてみたい。

引用元:「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」 第11章 バイリンガル教育への疑問

我が家の子どもたちはまだ低学年と未就学児なので、この第11章で説明されているような思考特性は親には計り知れないですが、両言語共に引っ張りあいながら成長している様子は手に取るようにわかります。たとえば、日本語の音読に力を入れたら、英語のリーディング速度が速くなった、英語のライティングで先生から褒められて学校で熱心に取り組んだら、日本語の作文が得意になったなどです。

時間がない方は、関連の章だけでも読んで

我が家では、渡米前にイメージをつかんで家庭の方針を決めたり、渡米後にわが子を客観的に観察して日々の接し方を軌道修正する際に活用している本書ですが、難点は、そのボリュームの多さです。

本書はたくさんのデータや実例をあげて、難解な用語も平易な言葉で丁寧に解説してくれているので時間をかけて読む価値があります。しかし、海外駐在の準備をされている忙しい方には、全編を通して丁寧に読むことは、時間的に難しいかもしれません。

その場合、せめて関連が高い箇所だけでも渡航前に読めたら、海外で二つの言語を学ぶということのイメージがつかめるのではないでしょうか。

そこで、乳幼児期に海外で過ごすお子さまに関連が高い章をピックアップしてみました。ご参考にしてください。

  1. 多様なバイリンガルの全体像からわが子の目指す姿をイメージする
    • 第1章 バイリンガルとは …
  2. 小学生以下の母語習得の過程を年代ごとに理解したい
    • 第2章 子どもの母語の発達と年齢 
  3. 日本/海外でバイリンガル教育をする場合の家庭での役割を理解したい
    • 第4章 家庭で育てるバイリンガル
  4. 非英語圏のインターで英語を学ぶ場合
    • 第5章 イマージョン方式のバイリンガル教育
  5. 海外で全日制日本人学校や補習校などを通じて日本語を学ぶ場合
    • 第8章 海外児童生徒とバイリンガル教育

まとめ

以上、乳幼児、小学生を連れて海外駐在が決まったら読む本として、『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』をご紹介しました。最後にまとめを表示します。この記事が、海外駐在を控えた親御さんの参考になれば幸いです。

  • 『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』は海外で小学生以下のお子さまを育てるご家庭で必読の本
  • 本書の豊富なデータや実例と解説を読むと、海外で過ごすわが子の成長の過程を予測できる
  • 本書を読んで適切に対応すれば、バイリンガル教育の弊害を防ぎ、メリットを最大化することができる