幼児期に渡米し低学年までをアメリカで過ごす子どもたちのために、わが家は、あえて日本人の多い現地校を選びました。日本人ばかりで固まってしまうと、子どもの英語が伸びないという話も聞きますが、実際どうだったのでしょうか。当記事では日本人の多い学校を選んだ結果よかったこと、悪かったことを振り返ります。海外移住や駐在を控えている幼児~低学年のお子さまをもつ方は、わが家の経験をぜひ参考にしてください。
なお、本記事は私の実体験に基づくものですが、場所によってもタイミングによっても傾向は変わるので、あくまで一例として楽しみながらお読みいただければ幸いです。
日本人が多い学校を選んでよかった
結論から言うと、日本人の多い学校を選んでよかったです。日本人が多いことでトラブルも多く、禿げそうなくらい悩んだ時期もありましたが、もし渡米前に戻ってやり直せるとしても、日本人の多い学校を選ぶと思います。
日本人の多い学校を選んだ理由
わが家の前提
わが家は子1(女)が年長、子2(男)が2歳の時に渡米し、それぞれ現地公立小学校のKindergarten(年長クラス)と現地私立のプリスクールに入学しました(子2の入学は3歳から)。
日本人の多い地域を選び、住宅の候補を絞ったあとで、不動産屋からもらった情報をもとに日本人在籍者数が一番多い学校の学区にある住宅を選びました。
子どもが安心して成長するため
わが家は、「子どもが安心して成長するため」に日本人の多い学校を選びました。もう少し具体的に説明すると、以下の理由があげられます。
- 心理的安全性の確保
- 思考力の向上
ひとつずつ説明します。
理由1 心理的安全性の確保
子1は繊細な性格で環境の変化に弱いです。子2は環境の変化に鈍感でどこでもやっていけそうな性格ですが、それでも、言葉が通じず、「だっこー」などの要望を理解してもらえないというのは相当にストレスのかかる状況だと思いました。幼児期は自分の主張が受け入れられることで自己肯定感が醸成され、のびのびと育つことができます。転校だけでも不安なのに、全く言葉の通じない、見た目も違う人たちに囲まれて過ごすことを考えると、少しでも安心材料を用意してあげたいと考えました。
理由2 思考力の向上
私は「話すことは思考力を育てる」という考えから、幼児期~低学年は母語である日本語の力を伸ばすことが大事だと考えています。もちろん、話す言語は日本語でなくても思考力は育ちますが、英語が身につくまでの数年間、言葉が通じないことを理由に沈黙を強いられ、話す力、思考する力が育てられないのは致命的です。大人でも1週間家にこもって、誰とも話さないと頭がぼーっとする、言葉が出てこないという状態になると思います。これは、「話さない」ということが、「考えない」ということと直結するからです。自分の言葉で、週末の出来事、楽しかったこと、嫌だったことを友だちに伝える、共感してもらったり否定されたりする、という、日本では当たり前の生活が子どもの思考力を育てると思っています。
全日制の日本人学校は?
全日制の日本人学校に入れることも検討しましたが、学校の規模、生徒の多様性、先生の質などの理由で断念しました。
英語教育に対する考え
英語は大事
私が日本語を重視していると話すと、駐在ママから、英語の必要性を知らないのかと驚かれることもあります。私も英語は将来的には必要だと思っています。ただ、幼児~低学年で身につく英語は、しょせん年齢相当のレベルであり、帰国してからも年齢相当の英語を伸ばすための努力が必要です。帰国してから継続して勉強するためにも、まずは、アメリカの学校は楽しい、英語ができるともっと楽しいという気持ちを持つことが大事です。
日本人で固まることは”恥”ではない
「わが子をバイリンガルに!」「日本人同士で固まるなんて日本の恥だ」「現地の子と英語で話しているわが子をSNSにあげるのだ!」と鼻息の荒いママも多いのですが、子どもは、語学留学の目的で強い決意を胸に海を渡った訳ではないです。
いくら日本人で固まっていても授業は英語ですから、学校に行きさえすれば、子どもは必ず英語を自然と身につけます。もちろん、到達レベルや上達スピードには個人差はありますが、渡米前より英語力は向上していることは間違いありません。最初は日本人同士で固まっていても、英語が上達すれば少しずつ現地のお友だちとも交流するようになります。誰にどう思われるかではなく、わが子がどう思うかを重視しました。
帰国後にも学び続けるために
期間限定の駐在の場合、親として最も注意しなければいけないのは、渡米後に日本語を遠ざけて英語に全集中した結果、帰国後に学年相当の日本語力、思考力が身についていないことに気づいて、あわてて日本語の勉強を強化する、結果的に、英語を放置せざるを得ないという事態です。やはり、帰国後も英語の勉強を継続できるように、渡米中も日本語の能力を伸ばし続ける、そのために日本語を使う機会を確保することが大事と考えます。
幼稚園から2年生ぐらいまで、つまり母国語となる日本語の国語力ができあがっていないこの時期に身につけた英語は、ネイティブのようなアクセントがとてもきれいですが、帰国後半年で忘れてしまいます。忘れてしまう英語のために現地校に行かせ、その犠牲として国語力・漢字力が遅れている、という状況が一番避けなければならない状況です。
出典:西大和学園カリフォルニア校 https://www.nacus.org/weekday/english-education/
学校の方針
日本人を同じクラスに固める
子どもの小学校はELDクラスがなく、ネイティブと同じクラスに在籍するシステムでした。初年度、子1の学年(Kindergarten)は1クラスあたり2~4人の日本人が在籍していましたが、逆に1人も日本人がいないクラスもあり、1人だけ日本人のクラスはありませんでした。平たくいえば、日本人はある程度固められてクラス編成されているという状況です。また、全員がEL(English Learner:英語の面で学校からのサポートが必要と認定された生徒)でした。
アメリカでは、クラス編成に親が要望を出せるので、日本人ママの中には、日本人のいないクラスにしてと伝えた人もいました。けれど、要望が叶わず残念がっていましたね。あとで分かったのですが、子どもの学校では、同一言語のELは同じクラスにする方針だったのです。子どもの心のケアのために必要だからだそうです。
自立している子は固められない
2,3年目になると、態度がしっかりしている子は日本人1人というクラス編成になっていきました。英語の試験成績ではなく、態度(わからないことを質問する、現地の子どもと交流する)の面で自立している子が日本人で固める対象から外れていくようです。
ELDクラスの制度はないけれど、ELDクラスの安心感とイマージョン(ネイティブと交流する)教育のいいとこ取りができて、非ネイティブの子どもたちにとって非常によいシステムだと思いました。
実際どうだったか
実際通ってみて、よかったことも悪かったこともありました。以下では主に子1(女)の経験から振り返ってみます。子2(男)は、後述の通り日本人との接点が少なかったためです。
よかったこと
ソフトランディングできた
子1は恥ずかしがりな性格ですが、日本語が通じるという共通点を持つ日本人のお友だちとはすぐに打ち解けました。渡米3年目という世話好きな女の子がお世話をしてくれて本当にありがたかったです。彼女もまたEL(English Learner)だったのですが、子1よりは英語力がはるかに高く、親子ともに憧れの存在でした。
親も、不明なことをすぐに聞けるママ友の存在が心強く、渡米直後の不安な気持ちを受け止めていただきました。
日本語の維持、向上ができた
子1は、文字通りスポンジが水を吸うように英語の表現を吸収し、表情やあいづちなどもネイティブっぽくなっていきましたが、学校のランチ時間は日本語でしゃべっていました。まさに、日本人(大人)が嫌がる「子どもが日本人で固まる」状態です。しかし、お弁当の中身を自慢したり、週末の旅行の話をしたり、自分の思いを話すこと、質問をすることなどは、情緒面の発達や日本語の維持・向上に大いに役立ちました。また、漢字や九九の話題だったり、読んでいる日本語の本の話題だったりで盛り上がることもあるようで、家での日本語の勉強も嫌がらずにやっていました。
英語も伸びた
子1は、毎日楽しく学校に通っていたので、英語も学力も想像以上に伸びました。
入学して数か月もすると、現地の友だちも増えました。ランチに日本人以外の子も入ってきたり、子どもから日本人以外の子どもの輪に入って食べる機会も少しずつ増えたようです。英語が通じるともっと英語を使ってみたい、もっと英語が上手になりたいという気持ちが強くなりました。
1年後には、先生からも「コミュニケーションになんの問題もない」と言われ、無事にEL(English Learner)も卒業しました。まだ低学年で、求められるレベルも高くないので、通知表はオールAでした。
3年目(2年生)の今は、ベストフレンドはネイティブの子で、好きな男の子もネイティブの子です。ただ、たまに日本人グループでランチをすることもあって、それはそれで楽しいみたいです。通知表オールAも継続中です。
悪かったこと
英語がネイティブレベルではない
子1は、渡米3年目の今でも日本語優位です。5歳で渡米した子は1年半で英語が優位になるという説を読んだことがありますが、わが子については違いました。特にスピーキングに苦手意識があります。先生や親から見ると流暢にしゃべれているように見えますが、日本語の方が思ったことが言いやすいようです。学校での発言も遠慮してしまうことが多いそうです。学力面は学年相当でも英語能力の面ではネイティブレベルではないという状況です。
重荷を背負う子どもたち
子1は、入学して1~2年は、環境変化のストレスや日本人の友だちのマウンティング(自慢したい年ごろなので仕方ないです)に上手に対応できず、トラブルが絶えませんでした。日本では保育園で多種多様な友だちに囲まれて、鍛えられながらも特に問題を起こすこともありませんでした。しかし、現地で過ごしてきた子どもには、特有の危なっかしさが見られ、ストレスを抱えた者同士、思わぬトラブルに発展してしまうのです。
子1の学校の日本人はkindergarten(年長)のはじめ時点ではネイティブレベルの英語力を持った子はいませんでした。現地生まれの子や未就園児のころに渡米の子であってもです。
わが子も含め、ネイティブ並みにしゃべれない子は、学校で、家庭で、大なり小なりストレスを抱えています。さらに、幼児期に現地のプリスクールに通っていても言葉でのコミュニケーションを十分に経験していないので、集団生活や友だちとの遊び方に慣れていません。親からの「英語を身につけよ」というプレッシャーも敏感に感じています。中には、日本語も不自由という子もいます。一見普通の日本の子どもに見えても、日本にいる日本の子どもたちとは抱えているものが違います。
- 親から”英語の子”と仲良くすることを奨励されており、学校で日本人と遊んでいることを親に隠している
- 親に怒られるから、私より英語が上手にならないで欲しいと友だちに泣いてお願いする
- “汚い日本語”を使う友だちにショックを受ける(バカ、オメー、うるせーなど。低学年で渡米した子で一人称の”オレ”を注意され、”ボク”に改めた子もいました。)
このような状況なので、当然、トラブルも多くなります。さらに、言葉の壁から学校の先生に助けを求められず、親も子どもからの報告だけでは状況を把握できず、問題が大きくなりがちでした。
それでも、5~6歳の子どもなので、トラブルがあっても、たいてい、数日後には仲良く遊び始めました。子どもの不平不満を聞いたときは心穏やかではないですが、話をよく聞いて、共感してあげるよう心掛けました。
親の価値観も多様
同じ日本語を使う、同じ”駐妻”という立場、同じ年頃の子どもを持つなど、共通項も多い一方で、やはり親のバックグラウンドは様々です。
日本では幼稚園・保育園の保護者会で「○歳児は、こういう時期です、こういうトラブルが増えます、親としてこういう対応をしましょう。」などの親への教育が行われますが、アメリカのプリスクール、小学校ではそのような機会はありません。私の住む自治体では、親向けのセミナーが頻繁に開催されていましたが、当然英語なので、私の周りの日本人の方はだれも参加していませんでした。
現地で過ごす親も、日本でわが子の幼稚園/保育園を経験していないから故の振る舞いをする人もいました。
- 他の子の好ましくない振る舞いに過剰反応する。(発達障害の薬を飲ませればいいのに、息子のブロックを壊すなんて、あの子はろくな大人にならない、汚い言葉を使う子とは遊ぶな、など)
- わが子に日本語の友だちを避けるよう指導し、子どもが守れないでいると相手の親に苦情を言う。
- わが子の英語上達を焦るあまり、幼児に英検3級の勉強をさせ、英語嫌いを加速させてしまう。
誤解を招くといけませんが、私はこういう方々を非難したいわけではありません。慣れない海外生活は本当に大変です。圧倒的に情報不足のなか、どの親御さんも、わが子を想い、一生懸命に日々を生きています。
ですから、価値観が違う人もいるな、海外だからお互い大変だよね、くらいの心構えでいるようにしました。
想定外だったこと
子2の級友は「日本人NG」だった
想定外だったこととして、子2が現地小学校に入学すると、クラスに日本人がもう一人しかおらず、その子の親は「日本人NG」の方針だったことです。といっても、その子は英語ができず、学校内では子2が手助けをするために日本語を使う機会もあり、日本人ゼロよりは良かったと思います。
それでも、日本語を使う機会は子1と比較して圧倒的に少なく、”日本語より英語の方が話しやすい”となってしまいました。子2の発達状況については、別記事に書きたいと思います。
結論:もう一度学校を選ぶなら
苦労したこと、想定外のこともありましたが、もし、渡米前の状況に戻れたとしても、私は日本人の多い学校を選ぶと思います。
子1の英語力は特にスピーキングが伸びなかったと感じていますが、英語へのモチベーションは高いので、日本に帰国してからも伸びていくでしょう。
トラブルも多くありましたが、年齢相応のレベルのケンカをすること、居心地の悪さを感じることも貴重な経験でした。言葉が通じぬ中で貝のように口を閉ざした状態であれば、ケンカをする機会もなかったことでしょう。
まとめ
最後にまとめを表示します。この記事が海外で現地校を探している方の参考になれば幸いです。
- 子どもを日本人の多い現地校に入れた結果、日本語も伸びたし、英語も想像以上に伸びた。
- 現地の日本人のお友だちはストレスを抱えがちなので日本にいるときよりトラブルは多い。
- 価値観の合わないママ友もいるので、適度な距離感を保つ。
- 日本人の多い現地校に入れても、学年によっては日本人が少ないこともある。